鋸刃ねじ(のこ歯ねじ)と台形ねじを徹底比較:用途と選び方
「鋸刃ねじ」と聞いて、多くの方が思い浮かべるのは、電動ノコギリの刃を固定するボルトかもしれません。しかし、実はもう一つ、ねじ山の形状が「鋸の刃」に似ている特殊なねじが存在します。それが「鋸刃ねじ(のこ歯ねじ)」です。このねじは、台形ねじと混同されがちですが、それぞれに独自の特性と最適な用途があります。
台形ねじとは?広い用途で活躍する「力の伝達者」
台形ねじ(Trapezoidal Thread、またはインチ系ではAcme Thread)は、その名の通り、ねじ山の断面が対称な台形をしているのが特徴です。JIS規格では、ねじ山角度30°のメートル台形ねじ(Tr)が一般的です。
台形ねじの主な特徴
- 高い耐荷重性: ねじ山の接触面積が広いため、軸方向の大きな荷重に安定して耐えられます。
- スムーズな動き: 比較的摩擦が少なく、回転運動を効率的に直線運動に変換できます。この特性から「送りねじ」として非常に優れています。
- 両方向の荷重対応: 対称な形状のため、ねじの締め付け方向、緩め方向のどちらの荷重にも比較的均等に対応できます。
- 製作のしやすさ: 三角ねじに比べ、切削加工がしやすい傾向にあります。
台形ねじの主な用途
工作機械(旋盤、フライス盤などの送りねじ)、ジャッキ、プレス機、バルブの開閉機構、昇降装置、各種搬送装置など、「大きな力を伝達し、正確な位置決めや移動を行う」必要がある幅広い機械装置で利用されています。
鋸刃ねじ(のこ歯ねじ)とは?一方向の超高荷重に特化

一方、鋸刃ねじ(のこ歯ねじ、Buttress Thread)は、そのねじ山の断面が非対称な台形をしており、片側が直角に近い「のこぎりの歯」のような形状をしています。通常、力を受ける側の面(作用面)はほぼ垂直(0°~5°程度)で、反対側の面は30°~45°程度の傾斜を持っています。
鋸刃ねじ(のこ歯ねじ)の主な特徴
- 一方向への極めて高い耐荷重性: ねじ山の作用面がほぼ垂直であるため、一方向にかかる非常に大きな軸方向荷重に対して圧倒的な強度と効率を発揮します。まさに、特定の方向への押し込みや引き込みに特化した設計です。
- 低い摩擦と効率: 作用面が垂直に近いため、その方向に力を伝える際の摩擦が少なく、非常に効率的です。
- バックラッシの少なさ: 逆方向への回転時や荷重がかからない方向への動きにおいて、遊び(バックラッシ)が少ない傾向があります。
鋸刃ねじ(のこ歯ねじ)の主な用途
プレス機、万力、大砲の砲尾機構、航空機のプロペラ取り付け部、油圧・水圧プレス、特定の昇降装置など、「特定の方向へ極めて大きな力を伝達する必要がある」装置や機械に採用されます。特に安全性が重視される高負荷環境でその真価を発揮します。
台形ねじと鋸刃ねじ(のこ歯ねじ):決定的な違いと選び方
この二つのねじは非常によく似ていますが、その非対称性こそが決定的な違いです。
| 特徴 | 台形ねじ | 鋸刃ねじ(のこ歯ねじ) |
| ねじ山の形状 | 対称な台形 | 非対称な台形(のこぎりの歯型) |
| 耐荷重の方向 | 両方向の荷重に対応 | 一方向の極めて大きな荷重に特化 |
| 効率性 | 比較的高い(送りねじとして汎用性大) | 作用方向への伝達効率が非常に高い |
| 主な用途 | 送りねじ、ジャッキなど広範囲 | プレス、万力など一方向高荷重用途 |
鋸刃ねじ(のこ歯ねじ)の角度の基礎
鋸刃ねじのねじ山は非対称な台形であり、大きく分けて二つの面(フランク)の角度で定義されます。

※こちらは45度の特殊鋸刃ネジ
- 作用面の角度:
- 定義: 主に荷重を受ける側の面です。
- 特徴: この面はねじの軸に対してほぼ垂直に設計されます。
- 一般的な角度:0°から7°程度と非常に小さい角度が採用されます。
- 例えば、ドイツのDIN 513規格では3°、アメリカのANSI B1.9では7°などが一般的です。
- 弊社製作品には、完全に0°(垂直)に近いものもありますが、実際の製造ではわずかな傾斜(例:3°)を持たせることで、加工性や応力集中を考慮しています。
- 目的: この角度が小さいほど、一方向への軸方向荷重を効率的かつ強力に伝達できます。垂直に近いことで、ねじ山のせん断応力を最小限に抑え、非常に大きな力に耐えることが可能になります。
- 逃げ面の角度:
- 定義: 荷重がかからない側の面、または逆方向の回転時に接触する側の面です。
- 特徴: 作用面とは異なり、比較的大きな傾斜を持っています。
- 一般的な角度:30°から45°程度が一般的です。
- DIN 513規格では30°、ANSI B1.9では45°などが採用されます。
- 目的: この角度は、主にねじの噛み合いやすさや加工性に影響します。作用面と比べて角度が大きいため、逆方向への荷重伝達効率は低く、これが「一方向特化」の理由でもあります。
なぜこの角度が重要なのか?
鋸刃ねじの性能は、この二つの角度の組み合わせによって決まります。
- 耐荷重性: 作用面が垂直に近いほど、軸方向の荷重をねじ山の圧縮応力として効率よく受け止めます。これにより、ねじ山のせん断や変形を抑制し、非常に高い耐荷重性を実現します。
- 動力伝達効率: 作用面の角度が小さいことで、ねじを回転させて軸方向に力を伝える際の摩擦抵抗が最小限に抑えられます。これにより、少ない力で大きな押し込み(または引き込み)を行うことが可能です。
- 自己ロック性: ねじ山の角度、特に作用面と摩擦係数の組み合わせによっては、荷重がかかった状態で逆転しにくい「自己ロック性」を持たせることができます。これにより、外部からの動力なしに、荷重を保持することが可能になります。
- 加工性: 作用面を完全に垂直にすると加工が難しくなるため、わずかな角度(例:3°)を設けることで、製造を容易にしつつ、高い性能を維持しています。
代表的な鋸刃ねじの角度規格
鋸刃ねじにはいくつかの国際的な規格が存在し、それぞれ異なる角度の組み合わせを採用しています。
- DIN 513 (ドイツ規格):
- 作用面: 3°
- 逃げ面: 30°
- 特にスピンドルプレスやリフティングシステムなど、高い負荷伝達が求められる用途で広く使われます。
- ANSI B1.9 (アメリカ規格):
- 作用面: 7°
- 逃げ面: 45°
- こちらは、加工のしやすさと耐荷重性のバランスを考慮した設計と言えます。
これらの規格以外にも、特定の用途やメーカー独自の角度を持つ鋸刃ねじも存在します。設計者は、使用する機械の荷重条件、必要な伝達効率、精度、そして加工性を総合的に考慮して、最適な鋸刃ねじの角度を選択する必要があります。
鋸刃ねじの角度は、その機能性を最大限に引き出すための「設計の要」であり、この精密な角度の調整によって、高負荷環境下での確実な動作と安全性が保証されているのです。
装置に最適なねじを選ぶには?
- 両方向にバランス良く力を伝えたい、または精密な位置決めが主目的の場合: 台形ねじが適しています。工作機械の送りねじのように、正転・逆転両方向で荷重がかかり、かつスムーズな動きが求められる場合に最適です。
- 特定の方向に極めて大きな力を伝えたい、または強力な締め付け力が一方向に集中する場合: **鋸刃ねじ(のこ歯ねじ)**が最適な選択肢です。プレス機のように、一方向への大きな押し込み力が必要な場合や、高荷重環境での高い安全性が求められる場合にその真価を発揮します。
鋸刃ねじや台形ねじや角ねじが活躍する主要な産業分野
鋸刃ねじの持つ「一方向への超高荷重伝達」という特性は、特に以下のような分野でその真価を発揮し、不可欠な要素となっています。
- プレス機械: 金属や樹脂の成形・打ち抜きを行うプレス機では、一方向へ莫大な力を加えるため、鋸刃ねじがその強力な押圧力の伝達を担い、安定した高精度プレス加工を実現します。
- 産業用クランプ・万力: ワークを強力に締め付けるクランプや万力において、一方向への大きな締め付け力が必要とされ、鋸刃ねじが確実な固定と安全性を保証します。
- 航空宇宙・防衛産業: 大砲の砲尾機構や、航空機のプロペラ取り付け部など、極めて大きな一方向荷重や反動力を確実に受け止める必要がある、最高レベルの信頼性が求められる分野で採用されます。
- 特殊な昇降装置: 重量物を一方向に安全に持ち上げたり、高負荷状態で正確に保持したりする昇降装置において、鋸刃ねじの強力な伝達力が活用されます。
精密機械を支える「特殊ねじ」の選び方
「鋸刃ねじ」と「台形ねじ」は、どちらも大きな力を伝達する送りねじとして非常に重要です。しかし、そのねじ山の微妙な形状の違いが、耐えられる荷重の方向や効率性に大きな差を生み出します。
機器の設計や装置の要件を正確に把握し、最適なねじを選ぶことが、機械の性能向上と安全性の確保に直結します。もし、どちらのねじを選べばよいか迷われた場合は、伝達したい力の方向、大きさ、そして必要な精度を明確にすることが、正しい選択への第一歩となるでしょう。
これらの特殊なねじについて、さらに詳しく知りたい点があれば、大友機械製作所までお気軽にご質問ください。
